あなたが教えてくれた世界




幼い時からずっと、オリビアを心配して、支えてくれる唯一の存在だった。


(私なんかにも優しくしてくれて……。ハリスは早く幸せになるべきだわ)


きっと、この戦争が終わったら──……ハリスはどこかの貴族の令嬢と婚姻を結び、アルコンの爵位を正式に継承するはずだ。


情報の多くまわってくる使用人の身である。アルコン家の動きはとうに知っていた。


そう思うと、何故だか胸の奥がチクリと痛んだ。


「……オリビア?」


急に黙りこくった彼女を気遣うように、ハリスが名前を呼んでくる。


どうやら、彼女があれこれ考えていた間に、ハリスは何かを言っていたようだ。


(……やっぱり寝不足で疲れてるのかしら。おかしいわ……)


オリビアは頭を振って気分を切り替えて言う。


胸の痛みは、気のせいだと言い聞かせた。


「ごめんなさい、少し考え事をしてて……。もう一度言ってくれる?」


御者席からやれやれと言うような溜め息が聞こえた。


「これからの旅でのことなんだけど……。行動とかの決定権は、君に任せてもいいかな?」


一瞬彼の言葉の意味がわからず、オリビアは目をぱちくりとさせた。


決定権と言うのは、馬車に乗っていて疲れたから休みたいとか、何か予想外の出来事があったときに、通る道を変更するかなどを決定するものだろう。


「……私?どうして?」


「だって、アルディス様に任せるのは……無理だろ。どうしたいが聞いても、答えは得られないんじゃないかな」


確かに、この旅の間の主人であるアルディスが意思表示をしない状態では、いささか頼りないだろう。


「それにオリビアなら、アルディス様の様子もわかるし、しっかりした決定を下せそうだろ」