『花さん、助けて』というメッセージがスマホに届いた日。
本文を読めば、夏休みにカナダから遊びに来ている従妹のエリーズが、縁日に浴衣で行きたいと主張。着付けは倉内の母ができるが、母は他の用事があって縁日に同行できない。エリーズの浴衣が着崩れたら、倉内ではどうしようもないので女性の助けがほしい、と。
倉内父は来るので、責任もって送迎しますと書かれていた。
「おかーさーん」
花は、台所にいた母にスマホをそのまま見せる。
「あらあら大変そうね……七時のお迎えなら、犬猫の世話も終わってるから行ってもいいんじゃない? 私の浴衣なら、もう花は着られそうね、出してあげるわ」
メッセージを見た花の母は、浴衣をいそいそと用意し始める。そんな母を横目に、花は『了解しました、七時に家で待っています』と倉内に返信したのだった。
「……!」
「ワーオ! サイトー! カワイイ! サイトーステキー!」
迎えのチャイムが鳴ったので、花が玄関を開けて出ると、倉内が驚いて固まった。そんな少年を後ろから押しのけて、エリーズが飛び出してくる。
彼女の浴衣は、白地に赤い大柄の花。花は、紺地に白い蝶の柄だ。
エリーズは派手な顔立ちなので、鮮やかな浴衣がよく似合っていた。そんな彼女に抱きつかれながら、花は倉内もその父も浴衣姿であるのに驚いていた。男の人の浴衣というのは、見る機会が少ないせいもあるが、顔立ちが日本人離れしているため、なかなか迫力を感じた。彼の母は、全員分の着付けを頑張ったようだ。
「エンニチー、エンニチー」とはしゃぐエリーズに引っ張られて車に連れ込まれたため、この時の花は、倉内とはほとんど話ができなかった。
神社に到着すると、エリーズのテンションは更にアップ。右の屋台、左の屋台と行ったり来たりするので、花は見失わないようにするのが大変だった。
彼女を追いかける時によろけて、倉内に助けてもらう。こういう人ごみで、さりげなく助けてもらえるのは本当にありがたい。そう思っていたらエリーズを見失いそうになった。倉内父に、無事確保されていたが。
「カエデ、シャシン! シャシン撮ッテ!」
「……!」
境内までたどりつきお参りをすませると、少し余裕のある境内の脇で一休み。そんな時に、エリーズが浴衣の写真を残したいのか、倉内に熱烈な写真アピールだ。それに、はっとした倉内が、父親の荷物からカメラを取り出す。かなり本格的なデジタルカメラなのは、見るだけで分かった。倉内家の居間に飾られた写真を撮ったカメラなのかもしれない。
「サイトーモ!」
エリーズの写真の邪魔になるからと離れようとした花は、その手にぐいっと引き戻される。そのまま、撮影会になってしまった。
倉内父がカメラを持ってくれ、三人でも写真を撮る。真ん中に倉内。両手に花の状態で女子で挟む。
最初はちょっと気取った表情で。その後、エリーズが倉内と腕を組む。
「サイトーモ! カエデ、オーオク!」
本当に意味が分かっているのかどうか分からない怪しい単語を並べながら、花にも同じことを要求される。もしかしてエリーズは、ハーレムを大奥と訳したのだろうか。
男の子と腕を組むなんてことを、これまでしたことのなかった花は、ちょっと困りながらそっと倉内を見上げると、彼は少し目をそらしながらも、肘だけをくいっと彼女の方へと近づけてきた。
「お邪魔します」
それにそっと手をかけるだけで、花は精一杯。ぎゅうと抱きついているエリーズとは、いろいろ違うのだからこれで許してほしいと思っていた。
「はい、笑ってー!」
倉内父が、楽しそうな声で笑顔の指示。
うまく笑えたかどうか、花には自信がなかった。
エリーズの浴衣が着崩れて大問題になるようなこともなく、無事縁日は終了。
「今日は、た……助かったよ。ありがとう、花さん」
玄関まで見送られて、「いえいえ、何のお役にも立ちませんでした」と花は彼の感謝をうまく受け取れずに笑う。
「サイトー、アリガトネー!」
エリーズからは、ほっぺにチューをもらった。男女合わせて、初めての出来事だったので、ちょっと花は恥ずかしかった。
「カエデモスル?」と、振り返りザマに倉内をからかったので、エリーズは赤くなった彼にコツンとやられていた。
騒がしくも楽しい突然の縁日が、こうして終わった。
あくびをしながら、花が寝る前に倉内のツーブヤキをチェックすると。
『家に一人で留守番のフルールは、すねてクローゼットの上で寝ていた。ごめんって十回言ったら、ようやく下りてきて抱かせてくれた。フルールを抱きながら、僕は罪悪感を覚えていた。ごめんね、僕の可愛いフルール。フルール抜きで、今日の僕は縁日を楽しんでしまった……ああ、どうしよう。可愛い……可愛い。僕が思わずフルールをぎゅっうっと抱いたら、顔に両手でぎゅっと押しのけられた。ああ、頭の中で可愛いが混線してしまう』
相変わらずのフルール病は鋭意続行中のようだ。
本文を読めば、夏休みにカナダから遊びに来ている従妹のエリーズが、縁日に浴衣で行きたいと主張。着付けは倉内の母ができるが、母は他の用事があって縁日に同行できない。エリーズの浴衣が着崩れたら、倉内ではどうしようもないので女性の助けがほしい、と。
倉内父は来るので、責任もって送迎しますと書かれていた。
「おかーさーん」
花は、台所にいた母にスマホをそのまま見せる。
「あらあら大変そうね……七時のお迎えなら、犬猫の世話も終わってるから行ってもいいんじゃない? 私の浴衣なら、もう花は着られそうね、出してあげるわ」
メッセージを見た花の母は、浴衣をいそいそと用意し始める。そんな母を横目に、花は『了解しました、七時に家で待っています』と倉内に返信したのだった。
「……!」
「ワーオ! サイトー! カワイイ! サイトーステキー!」
迎えのチャイムが鳴ったので、花が玄関を開けて出ると、倉内が驚いて固まった。そんな少年を後ろから押しのけて、エリーズが飛び出してくる。
彼女の浴衣は、白地に赤い大柄の花。花は、紺地に白い蝶の柄だ。
エリーズは派手な顔立ちなので、鮮やかな浴衣がよく似合っていた。そんな彼女に抱きつかれながら、花は倉内もその父も浴衣姿であるのに驚いていた。男の人の浴衣というのは、見る機会が少ないせいもあるが、顔立ちが日本人離れしているため、なかなか迫力を感じた。彼の母は、全員分の着付けを頑張ったようだ。
「エンニチー、エンニチー」とはしゃぐエリーズに引っ張られて車に連れ込まれたため、この時の花は、倉内とはほとんど話ができなかった。
神社に到着すると、エリーズのテンションは更にアップ。右の屋台、左の屋台と行ったり来たりするので、花は見失わないようにするのが大変だった。
彼女を追いかける時によろけて、倉内に助けてもらう。こういう人ごみで、さりげなく助けてもらえるのは本当にありがたい。そう思っていたらエリーズを見失いそうになった。倉内父に、無事確保されていたが。
「カエデ、シャシン! シャシン撮ッテ!」
「……!」
境内までたどりつきお参りをすませると、少し余裕のある境内の脇で一休み。そんな時に、エリーズが浴衣の写真を残したいのか、倉内に熱烈な写真アピールだ。それに、はっとした倉内が、父親の荷物からカメラを取り出す。かなり本格的なデジタルカメラなのは、見るだけで分かった。倉内家の居間に飾られた写真を撮ったカメラなのかもしれない。
「サイトーモ!」
エリーズの写真の邪魔になるからと離れようとした花は、その手にぐいっと引き戻される。そのまま、撮影会になってしまった。
倉内父がカメラを持ってくれ、三人でも写真を撮る。真ん中に倉内。両手に花の状態で女子で挟む。
最初はちょっと気取った表情で。その後、エリーズが倉内と腕を組む。
「サイトーモ! カエデ、オーオク!」
本当に意味が分かっているのかどうか分からない怪しい単語を並べながら、花にも同じことを要求される。もしかしてエリーズは、ハーレムを大奥と訳したのだろうか。
男の子と腕を組むなんてことを、これまでしたことのなかった花は、ちょっと困りながらそっと倉内を見上げると、彼は少し目をそらしながらも、肘だけをくいっと彼女の方へと近づけてきた。
「お邪魔します」
それにそっと手をかけるだけで、花は精一杯。ぎゅうと抱きついているエリーズとは、いろいろ違うのだからこれで許してほしいと思っていた。
「はい、笑ってー!」
倉内父が、楽しそうな声で笑顔の指示。
うまく笑えたかどうか、花には自信がなかった。
エリーズの浴衣が着崩れて大問題になるようなこともなく、無事縁日は終了。
「今日は、た……助かったよ。ありがとう、花さん」
玄関まで見送られて、「いえいえ、何のお役にも立ちませんでした」と花は彼の感謝をうまく受け取れずに笑う。
「サイトー、アリガトネー!」
エリーズからは、ほっぺにチューをもらった。男女合わせて、初めての出来事だったので、ちょっと花は恥ずかしかった。
「カエデモスル?」と、振り返りザマに倉内をからかったので、エリーズは赤くなった彼にコツンとやられていた。
騒がしくも楽しい突然の縁日が、こうして終わった。
あくびをしながら、花が寝る前に倉内のツーブヤキをチェックすると。
『家に一人で留守番のフルールは、すねてクローゼットの上で寝ていた。ごめんって十回言ったら、ようやく下りてきて抱かせてくれた。フルールを抱きながら、僕は罪悪感を覚えていた。ごめんね、僕の可愛いフルール。フルール抜きで、今日の僕は縁日を楽しんでしまった……ああ、どうしよう。可愛い……可愛い。僕が思わずフルールをぎゅっうっと抱いたら、顔に両手でぎゅっと押しのけられた。ああ、頭の中で可愛いが混線してしまう』
相変わらずのフルール病は鋭意続行中のようだ。


