それを聞いて目の前の少年は途端に不機嫌を露わにする。
 そして即座に怒鳴りつけてきた。


「俺だって、こんな子供のお守りはごめんですよ!」


 側にいた塔矢がすかさず少年の頭にげんこつを落とした。

 頭を押さえて首をすくめる少年の顔を紗也は呆気にとられてまじまじと見つめる。

 父が亡くなってから紗也に説教をする者は女官長くらいしかいなかった。
 それも怒鳴りつけたりはしない。

 大臣たちや塔矢に至っては、昔から多少のわがままやイタズラは怒るどころか笑って受け流すのだ。

 かわいがって甘やかされているというより、本気で相手にされていないようで、かえって迷惑をかけないようにしようという気になった。

 ところが和成はいきなり怒鳴りつけてきた。

 よくよく考えてみれば、自分が何気なく発した言葉は、初対面の相手に対して失礼極まりないものだ。
 怒って当然といえば当然だが、そういう者は今までひとりもいなかった。

 面と向かって感情を露わにする和成に紗也の興味は引きつけられた。

 和成なら本気で相手にしてくれる。
 紗也は宝物を見つけたような気分になった。