しばらくの間、黙って塔矢を見つめていた和成の目から堰(せき)を切ったように涙があふれた。


「……なんて、ひどい女。ずっと一緒にいてって言っておきながら、こんな面倒で重い事、俺一人に押しつけてさっさと一人で逝くなんて。やるなって言う事やるし、わかったって言いながらちっともわかってないし、最後まで俺の言う事聞いてくれなかった。護衛の俺をかばって死ぬなんて、いやがらせも甚だしい……」


 塔矢は思わず嘆息した。


「それ以上言ったら化けて出るぞ」


 和成は俯いて涙をこぼしながら続ける。


「化けて出たってかまわない。もう一度会えるなら。怒鳴ってばかりいないで、もっと優しくしていればよかった……。もっとわがまま聞いて差し上げれば……」


 俯いて涙をこぼし続ける和成の頭を、塔矢は黙ってクシャクシャとなでる。

 いつのまにか雨が止んで、西に傾いた太陽が空を茜色に染めていた。

 塔矢は立ち上がって空を眺めながら目を細める。

 夕焼け空にうっすらと虹がかかっていた。