「もういい! おやすみ!」


 そう言って渡り廊下に向かう紗也の背中に和成が問いかけた。


「紗也様。明日はいつお話にお伺いしましょうか?」


 紗也は一瞬立ち止まる。


「来なくていい!」


 背中を向けたまま言い放ち、そのまま渡り廊下の向こうに姿を消した。

 和成はそれを見送った後、自室へ戻り手ぬぐいを持って風呂へ出かける。

 風呂から戻ると机の上の電話が光っていた。
 紗也からの電信だ。


”やっぱり夕食後、部屋に来て”

 和成は思わずクスリと笑った。
 こういうところはやっぱりかわいい。

”かしこまりました”と返信して電話を置いた。

 寝台に寝転んで窓の向こうの月を見つめる。

 冗談でごまかしたが、いつまでもごまかしているわけにもいかない。
 紗也が塔矢に話したらイヤでも決断を迫られるだろう。
 それまでには覚悟を決めなければならない。

 和成は大きくため息をつくと、ふと思い出して右近に電話をした。