和成はゆっくりと人影のそばまで歩み寄り、ひとつため息をついて問いかける。


「紗也様。ここで何をなさってるんですか? ひとりで私の部屋にいらしてはなりませんと塔矢殿に言われているじゃないですか」


 紗也はそれには答えず、和成を睨んで逆に問い返した。


「どうして電話に出ないの?」
「え? 電話なさったんですか? 全く鳴ってませんけど……」


 そう言いながら懐に手を突っ込んで和成は一瞬固まる。


「失礼します!」


 一言断って部屋の中に駆け込むと、真っ暗な部屋の中で机の上に放置された電話が着信を知らせる合図をピカピカと点滅させていた。

 手に取り開いてみると、着信履歴には間に塔矢や女官長の名前を挟んで”紗也様”がズラリと並んでいる。