一瞬、見物客が静まりかえった後、幻想的で楽しげな音楽が流れ始めた。
 大通りの端から明滅する色とりどりの灯りに飾られた山車(だし)が姿を見せる。
 そして同じように賑やかな灯りを身にまとった踊り子たちが、音楽に合わせてクルクルと楽しそうに踊りながら、ゆっくりとこちらに近付いて来た。

 紗也は和成に寄り添って目を細めながら、その様子を楽しそうに眺めている。

 紗也と同じ場景を見つめながら、和成はどこかうわの空だった。
 岐路に立たされた事に気付いたからだ。

 紗也の想いを聞いてしまったからには決断しなければならない。
 今まで通り、主従の関係を貫き通すのか、それとも紗也の想いに答えて主従の一線を越えるのか。

 一線を越えれば、自分の想いは叶う。
 だが、一線を越えるにはかなりの勇気と覚悟が必要となる。
 紗也と共に国の未来を背負う覚悟が。

 そして自分にその資格がある事を、塔矢を含む先代からの重臣たちに認めてもらわなければならない。

 いずれそう遠くない将来、真剣に向き合わなければならないだろう。

 和成はつないだ紗也の手をしっかりと握り返す。

 だが、今はまだ、周りにいる普通の恋人たちのように、つないだ互いの手のぬくもりを感じながら、目の前を通り過ぎる光と音の幻想に酔いしれていたかった。




(第三話 完)