和成は刀を手から落とし、そのまま塔矢にもたれかかった。

 意識を手放す間際、和成の口がかすかに動いた。
 身体を抱きかかえながら塔矢は、耳元でかすかに聞こえた声に少し目を細めて答える。


「それは生還して自分の目で確かめろ」


 気を失った和成を里志たちにまかせて、塔矢は楠のうろの中を覗いた。
 そこには和成に言われた通り、目を閉じて両手で耳を塞ぎ、自分の膝に顔を伏せて震えている紗也の姿があった。

 声をかけた塔矢に、紗也は目に涙を浮かべてしがみつく。


「塔矢! あの人たち、和成が軍師だから首を取るって……! 私が悪いの。私が和成の情報を流したから。私が勝手について来たから。私が道を外れて崖から落ちたから。全部私のせいなのに、和成が死んじゃったらどうしよう。塔矢ぁ」


 しがみついたまま子供のように泣きじゃくる紗也の背中を、塔矢は軽く叩きながら何度も繰り返す。


「大丈夫です。和成は死にません」


 塔矢はしがみついたままの紗也をそのまま抱き上げて、隊員たちと共に砦へと引き上げた。

 本当のところ和成は、かなり危険な状態にあったが、紗也の無事を自分の目で確認するまでは死なないだろうという妙な確信が塔矢にはあった。