塔矢たちが若者に教わった楠の見える場所にたどり着くと、そこには、さながら地獄絵図のような光景が広がっていた。

 大きな楠のうろの前には、血に染まった真っ赤な雪原が広がり、浜崎兵の亡骸が折り重なるようにして累々と横たわっている。
 その中心に刀を構えた和成が満身創痍で立っていた。

 全身を自らの血と返り血で赤く染め、貧血で血の気を失った肌はロウのように白い。
 そしてその顔は冷たく無表情で、光を失った暗い瞳は何も映していなかった。


「おまえらはここを動くな」


 里志たちにそう言うと、塔矢は刀を抜きながら悠々と和成に近付いて行く。
 近付く塔矢に和成がピクリと反応した。

 立ち止まることなく、そのまま平然と間合いに入ってきた塔矢に、驚く早さで和成の刀が薙ぎ払われる。
 塔矢はそれを刃の先で軽くいなすと、左手の拳で和成のみぞおちに一撃を食らわせた。

 一瞬、見開かれた和成の目に正気の光が戻ったが、すぐにゆっくりと閉じられていく。