ピクリと肩を震わせて、若者は俯きながら涙ぐんだ。


「鬼は容赦してくれないから、私に逃げろって間合いから遠ざけようと彼に背中を向けた途端……」

「そうか。おまえは運がよかったな」

「私があの人を杉森の軍師だと言ったからいけないんです。だから、みんなが首を取るって言い出して……」


 ハラハラと涙をこぼす若者の肩を塔矢は軽く叩く。


「おまえは情報を提供しただけだ。首を取れと言ったわけじゃないだろう? 相手の事をよく知りもしないで軽率な行動に出たそいつらの自業自得だ。だからおまえは、よく覚えておけよ。うちの天才美少年軍師はな、キレたら我が軍で最凶なんだ」


 そう言って塔矢は立ち上がり、若者に尋ねた。


「どこにいる?」


 涙に濡れた目で見上げながら、若者は塔矢の進行方向を指差す。


「少し行った所に大きな楠があります。その前に。気をつけて下さい。間合いに入ると問答無用で斬りかかってきます」


 塔矢は笑って若者に手を挙げた。


「ご忠告ありがとう」