「うちの兵が崖から落ちて迷い込んでるはずなんだが、見なかったか?」


 塔矢の問いかけに、若者は恐怖に目を見開いて自分の両肩を抱き、ガタガタと震えだす。


「……あれは、鬼です。最初は腕の立つ普通の人でした。けど、手負いとなって少し後、変わりました。立っているのもやっとな程の手傷を負いながら、間合いに入ってくる者を恐ろしい早業で、息を乱す事もなく無表情で切り捨てるんです」


 里志が後ろから塔矢に耳打ちした。


「塔矢殿。和成の奴、また壊れたんじゃ……」
「かもな」


 若者はさらに続ける。


「先輩が七年前に前線で見た戦鬼と同じだって……」
「ほぉ、七年前にあいつを見た奴がいたのか。そいつはどうした?」