「あーっ。ごまかしたー」


 紗也が背中に向かって指摘する。
 それを無視して和成が執務室を出ようとした時、塔矢が声をかけた。

 何か感付かれたのかと、思わず和成の心臓は跳ね上がる。

 努めて平静を装いつつ振り返る和成に、塔矢は淡々と告げる。


「昼一に軍議だからな。忘れるなよ」


 和成は戸口で一礼し、執務室を後にした。

 部屋を出た後、紗也の態度を思い出して思わずため息をつく。

 紗也は和成が女の子から手紙をもらう事を特段気にしていない様子だった。

 元々、自分の想いが一方通行である事をわかってはいるが、全く気にしてもらえないというのもなんだか寂しい。

 紗也が和成を独占したがるのは、お気に入りのおもちゃを取られたくないという子供の心理と同じなのだろう。
 それもわかってはいるが、自分が塔矢とは別格のような気がしてちょっと嬉しい。

 紗也の言動に一喜一憂してしまうのは我ながらバカバカしいとは思うものの、ついつい気にしてしまう。


(結局、振り回されてるよなぁ)


 和成は再びため息をついて、軍手に手を突っ込みながら除雪作業へと向かった。