問いかけると、紗也は微笑んで和成を見上げる。


「いいよ。あったかいし」


 そう言って紗也は、再び和成の胸にもたれた。

 紗也を抱いた左腕に少し力を込める。


「和成、ドキドキしてる」


 和成の胸に耳をつけて紗也が囁いた。


「してますよ。あたりまえじゃないですか」
「ふーん。あたりまえなんだ」


 そう言って紗也は小さく笑った。

 このまま時が止まってしまえばいいのにと思いながら、最後に一度だけ両腕で紗也をぎゅっと抱きしめる。

 しばらくそのままで、二度とないかもしれない至福の時を胸に刻み込むと、和成は紗也から離れた。

 紗也は夢から覚めたばかりのような、うっとりとした表情でぼんやり和成を見つめる。