月には魔力があるという。
 人の心を狂わせる魔力が。

 これほど月に惹かれる自分は、すでにその魔力に魅入られているのかもしれない。


「だから、紗也様なのかな」


 報われない想いを捨てきれず、しかも日に日に膨らませているなど心が惑わされているからに違いない。

 あれほど辛いと思っていたのは、きっと紗也に嘘をついていたから。

 胸の内を明かしてしまった今では、想いが報われないことを悲観する気持ちはすっかり消えてしまっていた。

 紗也を想う時の心の高揚感、その心地よさだけで幸せな気分になれる。

 こんな幸せな気分になれるなら、月の魔法に惑わされるのも悪くはない。

 和成はお伽噺の人形のように、”星”ならぬ”月”にお願いしてみた。


”どうか、この幸せな魔法がずっと解けませんように”



(第二話 完)