「ケチーッ! なんか弱みを握った気がしない。女官たちが目を覚ますから、もう帰る! おやすみ!」


 そう言って紗也は和成に背を向けた。


「おやすみなさいませ」


 渡り廊下の向こうに消えていく紗也の後ろ姿を見送りながら、和成は飲み込んだ言葉をつぶやく。


「俺の恋人になったら、どんなわがままでも聞きますよ」


 それは一生ありえない。

 和成は月見の指定席に座り直すと、残った甘酒を一気に飲み干し、月を見上げた。