紗也は嬉しそうな笑顔で和成を見つめた。


「よかった。今日は一回も怒鳴らないのかと思った」


 その様子に和成は一気に毒気を抜かれてため息をつく。


「怒鳴られて嬉しそうにしないで下さいよ。あなたを怒鳴るのは別に私の日課じゃありませんし」


 酒瓶と湯呑みを持って立ち上がると、紗也も立ち上がった。


「ねぇ。この上着、貰ってもいい?」


 見ると紗也は和成の上着に袖まで通して、持って帰る気満々に見える。


「かまいませんけど、それはもう古いので洗濯してある新しい別のを差し上げますよ」


 そう言って和成が手を差し出すと、紗也は上着の前をぎゅっと閉じて一歩下がった。