紗也は気まずそうに俯いて、和成に背を向ける。


「見ないでよ。確かにあんなに怒った塔矢を見たのも初めてで怖かったし、私のせいで和成が殴られたのもつらかったけど、殴られただけじゃすまないんでしょ?」

「何の事ですか?」


 和成は静かにとぼけてみせる。
 長い髪を翻して紗也は勢いよく振り返った。


「知ってるんだから! ここって城と違ってまわりの音が丸聞こえなのよ。兵士たちが署名運動してるのが聞こえたの。私も署名しようと思って……」

「署名なさったんですか?!」


 言葉を遮り、和成は慌てて尋ねる。
 紗也は泣きそうな顔でフルフルと首を振った。


「ううん。させてもらえなかった。これは兵士用だからって」