「美波せんせ!
俺にチョコとかないわけ?」
ほんの少しの期待を込めて、茶化すように先生に言った。
ほんの少しどころか
本当は喉から手が出るほど
欲しかったけど
「はあ?
なに言ってんの、まったくもう」
「まじ?くれると思ってたわー」
そう言うと
呆れたように先生は笑う
でもそんな表情が見られるだけでも嬉しかった
昼休み、わざわざ職員室の前まで来てこんなことを言うのは
ガキすぎて
自分でも馬鹿なことをしているのはわかる
でも、たとえもらえなかったとしても
それが話すきっかけにさえなるのならなんでもよかったんだ
「ほーら、そろそろ予鈴なるよ
教室戻んな」
先生はぽんっと俺の肩を叩いて
戻るように促す。
「んー」
「こら、椎名
んーじゃなくて、はいでしょ」
少し怒った顔も
もっと見たいと思うのだから
きっとこの気持ちは嘘ではないと
いつも確信させられる。