触れたかどうかすらわからないような、
優しいキスにこんなにも翻弄されるなん
て。
「……あ、そうだ、そういえば」
大倉は何かを思い出したようにそう言う
と、斜めがけにしていた鞄から、袋を取
り出した。
「澤部の趣味かは知らねーけど……」
そう言われて渡されたのは、半透明の花
柄の袋に入った、可愛らしい蝶のピン。
ラインストーンが所々に散りばめられて
いて、紫を基調としたそれは、どことな
くアゲハを連想させた。
「かわいい……」
「バレンタインのお返し。それつければ
、ちょっとは澤部も大人っぽくなるぜ」
それはあれか。私が子供っぽいと?
むう、と睨み付けると、大倉はクスクス
笑っていて。
「じゃーな」
最後にはいつもの意地悪な大倉に戻って
いたけど、そんな意地悪モードの大倉で
さえ。


