好きだ、と、前よりも深く、激しく、想
ってしまうから。
「……簡単に好きとか言ってんじゃねぇ
、バカ」
俺は照れ隠しにそう言うと、澤部の頭を
撫でてから、教室に戻った。
ふわり、と触れた部分から、酷く甘い痺
れが手から伝わって。
もっと触れたい、と思う前に。
取り返しのつかない行動をしでかす前に
、俺はそこから逃げ去ったんだ。
◆◆◆
───そして今に至る、と。
バレンタインにチョコレートなんて、腐
るほど貰ってきたけど。
好きな女から貰えるチョコレートが、こ
んなにも嬉しいものだなんて、知らなく
て。
「……兄貴、気持ち悪い」
思い出に浸っていると、ふと、そんな声
が聞こえてきて。
ドアの方を振り向けば、弟の瞬(しゅん
)が立っていた。


