エミリー?
どこに行ったの、エミリー?


「あ、ママが呼んでるから行くね。
お兄さんにも幸せがありますように」


母親の自分を呼ぶ声に気づき、少女は慌てて男の前から走り去っていった。


男はその少女の行く先を自然と追う。


少女はストリートの向かい側で母親に笑顔を向けているところだった。


買ったばかりのケーキを手に、ハミングしながら家路に向かっていく。

とても楽しそうだ。



男はそんな母子をぼんやりと見送ると、また顔を俯かせた。


視線の先には、つい今しがた少女から渡されたキャンディ。


そして、男が持っていた一枚の写真がある。


かなり昔に撮った写真のようだが、そこには端正なスーツに身を包んだ男性と、あどけない笑顔の男の子が写っていた。

親子だろうか。

何かの記念に撮った、そんな写真のようだ。



その写真の上にぽたりと雫が落ちた。



古びた写真を強く握りしめ、男は肩を震わせていた。


治まっていた感情がまた溢れだし、流したくもないのに涙が流れてくる。


男は静かに声を押し殺して泣いていた。


後から後から湧いて出てくる感情に、嗚咽にも似た呻き声が喉の奥から漏れて出てきた。


男はその場にうずくまり、キャンディと写真を握りしめながら涙を流し続けた。