「大丈夫?」


ジルはカチュアの隣に腰掛けて彼女を覗き込んだ。


「え…?」と発してカチュアが顔を上げる。


「今日のようなことは初めてでしょ。
怖い思いをさせてごめんなさい」


「そんな。ジルたちは私を護ってくれたでしょ。
二人がいなかったら私…」


きっと助からなかった。

カチュアはそう続けて、肩に掛けられたブランケットをきつく握りしめた。


昼間の情景を思い出してしまったのか、カチュアの肩が小刻みに震えている。


だが、「でもね…」とカチュアは唇を結んで続けた。


「こんなことも含めて、すべて試練だど思うの…」


「試練?」


「そう。洗礼の泉の儀式は、その“儀式”だけに意味があるんじゃない。
国を出発して、帰り着くまでが本当の目的なのよ。

短い旅だけれども、そこでいろいろな経験をして、いろいろなことをこの目で見る。
経験のないことが起こるのは必至だもの。
城の中にいるだけでは、王位を継承しても何もできない。

そんな風に考えられて、この儀式はあるんじゃないかって…。

だから、今日の出来事も受け止められる。
……ううん。受け止めなきゃって。…そう思う……」


カチュアはまるで自分に言い聞かせているかのようだ。


そしてそこには、王位継承者としての強い眼差しがあった。


「カチュア…」


「国の民の生活…、それ以外の人々…、共存するモンスター…。
城を出るまでは、知らないことばかりよ」


カチュアの瞳は、今日のことも含め、リィズ村まで辿り着いた数日間を思い出しているようだ。