その日の昼過ぎ、サダソとクリストファー、そして鉄仮面の兵士は、急ぎイスナ国へと先に旅立ってしまった。


クリストファーが呼び戻しにきた件は、余程の急ぎだったとみえる。



カチュア姫は彼らを安心させるように笑顔で彼らを見送っていた。


何言かサダソと言葉を交わし、クリストファーに無言で意思を伝えるように頷く。


私も儀式を終えたら、すぐに国に戻る。
そう言っているようだった。


薄い紅をつけた唇をキュッと結び、暫しの別れを告げる。


だが、ジルは見逃さなかった。

彼女が何度も愛おしいものを見つめるようにクリストファーに視線を送っていたのを。



強がっては見せているものの、本当は不安を胸いっぱいに抱えているのだろう。


自国の地から遠く離れ、一人で自らの義務を果たさなければならない彼女の胸中はどんなものだろうか。


それを思うとジルの胸は痛んだ。

と同時に自分に課せられた務めをやり遂げなければと強く感じた。