出発日の朝、ジルは昨晩用意していた荷物の再確認をして身支度を整えた。


「準備できたか?」


ローグに問われ、頷いて返事をする。


するとローグはベッドから立ち上がって部屋の扉を開いた。


宿屋かすみ荘の二階、廊下の向かい側の部屋にカチュア姫がいる。


ローグはその扉を軽くノックした。


「そろそろ出発しますけど、大丈夫ですか?」


カタンと物音がした後、蝶番(ちょうつがい)の軋んだ心地の悪い音を立てて扉が開く。


この村へ来たときよりも動きやすい服装に身を包んだカチュア姫がゆっくりと姿を現した。



実は、昨日のうちにジルたちはサダソに姫を紹介されていた。


切れ長の瞳を細めてカチュア姫はにっこりと微笑んだ。

上品な微笑である。


予めサダソから事情を説明されていたのだろう。


ジルたちと初めて顔を合わせたとき、姫はやや緊張しながら、
「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。


その時に揺れたサラサラの長い金髪を押さえた白い指先、ジルにはその仕種がとても印象的だった。


育ちがとてもいいことを思わせる。
些細な仕種でも気品を感じられた。


彼女は護衛の変更に関して特に異論はないようだった。

いや、仕方のないことだと納得したのかもしれない。