「しかし、びっくりだよな。
王女様ご一行だなんてよ」


浮かない表情のジルとは裏腹に、ローグの声は明るい。

いや、ローグはジルの感情を知ってワザと努めて明るく言っているのだろうか。


「大丈夫だって。
なにか用があって来たんだろうけど、ジルが心配するようなことじゃねぇって」


「でも………」


なぜローグはこんなに楽観的なのだろう。

理由も根拠もなく不安を募らせるジルは、自分のことを棚に上げてローグに対してこう思った。



「腹が減ってるからなんでも悪い風に考えちまうんだよ。
さ、帰って飯でも食いにいこうぜ」


ローグはそう言って立ち上がると、ジルの横を掠めて歩き出した。


脇を通るときにジルの手にあったタオルを奪う。


そのタオルを肩にかけて額の汗を拭いながら、振り返ってジルを促した。

「こいよ」とばかりに首を傾ける。



気がつけば時刻はもう夕刻だ。


陽が丘の向こうへ隠れようとしている。


東に目線を向けると、薄い藍色がかった空が広がりつつあった。


村の民家から離れたこの辺りは間もなく闇に包まれるだろう。



暗くなる前に帰ったほうがいい。


闇に覆われては更に思考がマイナス方面へ走ってしまいそうだ。


ジルは小さな溜め息を一つ漏らすと、ローグのあとを追いかけた。