「っていうか、どうしたんだ?
いつもの技のキレがねぇぜ?」
背中越しにローグの声が聞こえた。
ジルの肩がピクリと反応する。
「そんなこと…」
消え入りそうな声でジルが呟く。
そんなことないよ。
そう答えようとして、自然と言葉が途切れてしまった。
確かに手合わせの最中、集中できていない自分に気がついていた。
気懸かり事を掻き消すように身体を動かしていたとも言える。
その影響が組手に出てしまったようだ。
ローグに簡単に見破られてしまっている。
「ジル?」
ローグは胡座を掻いたままジルの背中を見上げた。
「さっきの、イスナ国の連中が気になってんのか?」
図星を差されジルは無言で振り返った。
そう、確かに気になっていた。
気にならないはずがない。
一国の王女がこんな何もない村に突然姿を現したのだ。
だが、気にしても仕方ない。
王族など自分たちと遥かに違う生活を送っているのだ。
時にはあちこちの街や村へ訪れることもあるだろう…。
そうは思っているのだが、あの時から妙に胸騒ぎが治まらない。
王女の姿を目にした時から、悪い予感がしてたまらない。
これから、あまりよくない出来事がありそうで…。
根拠のない不安だった。
だからなのか、ローグの言葉に何も返すことができなかった。