「エミリー。ちょっとここで待っていて。
ママ、今夜のパーティのケーキを取りにいってくるから。
いい子にしてるのよ」


とある一軒のケーキショップの前で、お気に入りのワンピースとコートを身に纏った少女は、母親からそう言われて黙って頷いた。


小さな店舗の中は今夜のケーキを求めにきた客たちでいっぱいだ。

一緒に中に連れて入るより外で待たせた方が窮屈な思いをさせないですむ。
母親はそう判断したようだ。



大きな紙袋を両腕に提げ、店の中へと体をねじ込んでいく母親を横目に、少女は手袋で覆われた掌にほぉっと息を吐いた。


季節は冬。

ただでさて寒いのに、少し前からチラついている雪のせいでいっそう手が悴んでしまいそうだ。


母親は以前からケーキを予約していたのだろうか。

それとも今から注文するのだろうか。


どちらにしてもすぐに母親は出てこないだろう。

少女はそんなことをぼんやりと考えていた。