すぐには思い出せなかったが、兵士のアーマーに彫られた紋章はイスナ国の紋章に間違いなかった。
ジルは少女の顔にも見覚えがあった。
一度イスナの城下町に赴いた際に、肖像画に描かれていた少女の顔が想起される。
ジルは頭を下げ、二人の次の言葉を待った。
老人は静かに頷くと、薄い笑みを浮かべたまま言った。
「いかにも、こちらはイスナ国の王女カチュア姫にございます。
私は教育係のサダソです。
して、そなたは?」
「はい。流れ者で旅をしております、ジルと申します。
お会いできて光栄にございます」
「お顔を上げてください」
そう言われ、ジルはゆっくりと立ち上がった。
目の前にはほほえむサダソと、イスナの王女。
王女はジルから目線を外している。
少し不機嫌にも感じられるが、凛とした表情を浮かべている。
城下を離れることは稀だろう。
裕福な暮らしをしている王女にとって、この村はどんな風に映っているのだろうか………。
「急にこのような形で訪れまして、皆様にはさぞかし驚かれたことでしょう。
しかし、我々にも事情がございましてな。
早速ですが、村長さんにご挨拶申し上げたいのですが…」
「えぇ…」
ジルは頷いたが、自分はここの住人ではない。
案内をさせるには村の住人が適任だろう。
そう思い、スコットに声を掛けた。

