村人の誰も馬車に向かって何か言うわけではなく、ただ声を沈めながらヒソヒソと話している。
興味がないわけではないが、平穏な村に現れた似つかわしくない物体に不安が渦巻く。
そんな表情を浮かべている。
不意に、手綱を持っていた男が地に降り立った。
立派なアーマーにスラリとしたロングソードを長いブルーのマントが覆い隠している。
頭に鉄の兜を被っているため、表情はよく分からない。
が、一瞬こちらを見遣った気がして、村人の間に緊張が走った。
しかし、男は木にした様子もなく馬車の扉に手をかけた。
その瞬間にマントが靡き、中のアーマーがチラリと現す。
銀色に輝くアーマーはピカピカに磨き上げられていて、とても旅人が着けるような代物には見えない。
観察をしながら、アーマーの胸元に龍の刻印が刻まれているのをジルは見た。
………あれはっ?
視線を落とし、記憶を辿る。
確か以前に目にしたはずだ。
どこで見たのだろう…。
………そう。
あの紋章は確か………。
はっきりと思い出すか否かのとき、ジルの思考はざわつく村人に一時中断させられてしまった。

