村の奥に位置する宿屋かすみ荘。


木造二階建ての建物の玄関ドアをスコットは勢いよく開けた。


「おい!
ジルとローグが帰ってきたぞ!」


家中に響き渡りそうな大きな声。


すると奥の方からガサガサとした衣擦れの音が聞こえてきた。


「なんだい。騒々しいね」
そう悪態をつきながら、でっぷりとした体格のいい女性が廊下の奥から姿を現したのだが、


「おや。
二人とも、おかえり」


玄関ロビーに佇む二人の姿を認めると、嬉々とした高い声を上げた。


「スピルおばさん。ただいま」

「またしばらく世話になるよ」


スピルと呼ばれたその女性は、二人の言葉に満面の笑みで応えてみせた。



スコットとスピルは夫婦で宿屋の経営をしている。


二人とも見るからにパワフルで健康的。


子供がいないせいか、ジルたちの面倒をみるのがとても楽しいらしい。


二人が無事に帰った祝いにサービスで料理を振る舞うだとか言い、ハミングしながら台所へと消えていった。


二人が帰ってきたことがよほど嬉しいのだろう。