「聞いたわよ、ジル」


カウンター席へ案内され、オシボリを持ってきたミシェルにいきなり言われた一言。


その顔はニマニマと楽しそうで、どこか落ち着きなくそわそわしているようにも見受けられる。


「もう。本当に大変だったんだから」


今回のイスナ国王女の一件か。

ジルは大袈裟に溜め息をついてみせた。


冒険談が大好きなミシェルのことだ。

きっと聞かせろと煩いに決まっている。


「何が大変よ。そんな素振り、今まで見せないで。
それならそうと言ってくれればいいのに」


ミシェルはそう言いながらジルの隣までやってきて、肘でツンツンと肩を突ついた。

何気に強く突つかれ、当たった肩が痛い。


ジルはそれをさっと避けると、渡されたオシボリで手を拭いた。


「言うって…。帰ってきてここへ来る暇がなかったんだから仕方ないじゃない。
とりあえず、ウーロン茶くれるかな?」


「そっか…。あのお姫様の件で、いろいろあったんだよね?」


ミシェルはドリンクカウンターに回ると、ウーロン茶を注ぎながら、思い出して考えるように唇に人差し指を当てながら言った。


そして、ウーロン茶を注いだグラスをジルの目の前に置く。


ミシェルはそのまま空いていた隣の席に座り込んだ。