「こんな風になるなんて思ってなかったよ…」


ジルの斜め前を行くクリストファーが漏らすように呟いた。


「え…?」


「あの村で君たちに護衛を頼んだことが、計画の失敗だったなテレビ」


虚ろに遠い眼をしながら言う。


「…私たちも、殺す気だったの?」


「あぁ。必要とあれば、な。
でも、今は君たちが護衛についてくれて正解だったと思うよ」


「………」


「君たちは全力で姫のことを護ってくれた。
獣人のモンスターのときも、吊り橋のときも。そして、俺が召喚した蜘蛛の化け物からも」


その言い草はまるでクリストファーがジルたちに感謝でもしているかのようだ。


「最初から監視してたって訳ね」


ジルは小さく溜め息を漏らして言った。


洞窟へ向かう途中、何度か視線を感じたことを思い出す。

あの正体はクリストファーだったのか。


「あぁ。機会を窺ってたのさ。
でも今は、姫を殺せなくてよかったと思っている。
もし、この手に掛けていたら……。
俺は今、正気ではいられないかもしれない」


そう言ってクリストファーは歩を止め、自分の両掌を見つめた。


今になってカチュアが自分の中でどれだけ大きな存在なのか気づかされた。


いや、分かっていたのに、その気持ちに蓋をしていたのかもしれない。

復讐という大きな目的のために。