後ろにいたスピルが小声で、「あんた」と促した。


スコットに行ってこいと言っているのだ。


周囲の村人も、誰もがスコットに視線を投げかけていた。


くそっ。

スコットは悪態をついて短髪の頭を掻き毟った。


それでも誰も動かないのは分かっていた。


スコットはゴクリと唾を飲み込むと、一歩一歩馬車に近づいていった。



ここで突然扉が開いたりしねぇだろうな。
脅かすんじゃねぇぞ…。


誰にも聞こえないような小声でブツブツ独り言を呟きながら馬車の扉に辿り着く。


そこでスコットは一度人垣の方を振り返ってみた。


「あんた。気をつけて」


スピルが口パクに近い状態で言っている。


それなら、俺以外のヤツに行かせればいいだろう。

そう思いながら女房を睨んだが、当の本人は胸の前で両拳を握りながら、まるで声援を送るようにこちらを見遣っていた。


スコットは深呼吸を一つすると、扉を軽くノックしてみた。


コンコンコン、と乾いた音が辺りに響く。


数秒待ってみたが、中からの反応はない。


もう一度ノックした。

さっきよりも強めに。


ドンドンドンッ。


だが、やはり反応はなかった。



中には誰も乗っていないのか?

訝しさが募っていく。


スコットは意を決して扉のノブに手を掛けた。


カチャリ…、と小さな音を立ててドアノブが回る。


鍵はかかっていない。


そっと開けた馬車の扉、その中にあった情景が飛び込んできて、スコットは息を呑んだ。


大変だ。


「おいっ。誰か、手を貸してくれっ!」