半ば強引にその場に連れてこられたスコット。


そこは村の入口だ。


住民の何人かも気づいたようで、既に人垣ができている。


その人垣を割って前に出てみると、そこにはスピルの言ったように、あの派手なレンガ色の馬車が佇んでいた。


二頭の白馬がブルルと喉を鳴らし、首を振る。


間違いなく一昨日までリィズ村に来ていたイスナの馬車だ。


そうスコットは確信した。


だが、何か違和感がある。
なんだか様子がおかしい。


「おい。あれはいつ着いたんだ?」


視線を馬車に向けながら、隣にいた男に尋ねた。


「ついさっきみたいだ。
なぁ、帰ったんじゃなかったのか? どうなってんだよ?」


平穏な村にお姫様ご一行が現れただけで大騒ぎだったのだ。

帰ったはずの馬車が戻ってきたことに村人は騒ついている。


「俺に訊いたって分かる訳にねぇだろ。
何か、忘れもんかもしれねぇ…」


「けど、スコット…。
誰も出てこねぇぞ?」


男の言うとおり、戻ってきた馬車からはサダソも兵士も誰も姿を現していないらしい。


そう、さっきスコットの感じた違和感。

馬車には人のいる気配がしないのだ。



「お前、行ってこいよ」


と、隣の男の腕を肘で突ついた。が、


「冗談じゃねぇよ。
俺の汚ねぇ手であんな上等なもん、触れるわけねぇだろ」


俺だって同んなじだ。

スコットは心の中で言い返した。


村人は不思議に思って集まってきてはいるものの、イスナ国の馬車という理由で自分から関わることを避けている。