逃げるように全力で走っていくが、普段運動などしていない少女に、冒険者のジルが追いつくことは容易だった。


金髪の揺れる背中を視界に捉えると、脚に力を入れてスピードを上げた。


蔦に足を絡ませ、カチュアの姿勢がガクンと崩れる。


寸でのところで腕を掴んで引き寄せた。


「カチュア。待ってったら!」


強い口調で咎めたジルに対して、見上げたカチュアの顔は涙でぐしょぐしょに濡れていた。


ジルの顔を見つめると、その顔を崩して口元を震わせる。


一呼吸の間の後、カチュアはジルの胸に顔を埋めて、大声で泣き出した。


恥じることなく感情をぶちまけて泣きじゃくる。

そんなカチュアの細い肩を、ジルはぎゅっと抱きしめた。


当たり前の感情だ。

こんな話をまだ16歳の少女が負うには精神的に辛すぎる。


クリストファーの父親の死の真実。

父親の鬼のように醜い心。

教育係で近くにいたサダソまでがそれに絡んでいた。


これをどう受け止めていいのだろうか。

明らかに心の許容量を超えている。



こんな時、どんな言葉をかけてやればいいのか。


ジル自身、真実にまだ信じられない思いがある。

まったく言葉が見つからない。

カチュアのために何がしてやれるのか分からない。


声を上げて泣き続けるカチュアの背中を撫でながら、ジルは自分の無力さを痛感した。