クリストファーが話し終えても、その場にいた誰もが口を開かなかった。

いや、開けなかったと言った方が正しい。


その重く苦しい残酷な真実に、意見することはできなかった。



何と言うことだろうか。

イスナ国王、王女暗殺計画の裏側に、そんな悲しくも腹立たしい出来事があったなんて、ジルは想像もしていなかった。


立っている両足がガクガクと震えてくる。

隣にいるローグも居た堪れない表情をしていた。



不意に、クリストファーの近くで話を聞いていたカチュアが徐に立ち上がった。


そして、くるりと身を翻すと、その場から走り出した。


口元を押さえ、目に涙をいっぱい浮かべながら、駆け出す。


この場に身を置いておくことが堪らず、また受け入れ難い事実にパニックを起こしたのかもしれない。

目を背けたい感情の表れだ。


「カチュアっ!」


ジルの呼びかけにも応えずに、カチュアは森の中への走り去っていった。


「カチュアっ。待って!」


ジルは慌てて後を追った。


心情的には落ち着くまで一人にしてやりたい。


だが、今は駄目だ。

ましてや森の中など言語道断だ。
危険極まりない。


ジルも木々の深い森へと飛び込んだ。


大木の大きな葉によって太陽が遮られる。


どっちへ行った?

左右を確認すると、茂みを大きく揺らしながら走っていく金髪が見え隠れした。


あの状態では、行く先を確認して進んでいるのではない。

がむしゃらに走っている。


このままでは右も左も分からなくなってしまう。


この場から逃げ出したい気持ちは痛いほど分かるが、見失う訳にはいかない。


ジルは目の前に垂れ下がった枝を払い除けると、金髪の見えた方を目印に駆けた。


足に雑草が纏わりつくことなど気にしていられない。