名残惜しいが踵を返して家に戻る。


朝食をとり、身支度を済ませて寝室に向かう。



ベッドのサイドテーブルに置かれた昨日読んだ本をやわらかい布で包みこむ。



その本と仕事用の鞄を持ち家をでる。









左隣の『藤野』と書かれた表札の横に控えめに置かれたポストにそれをそっと置くようにしていれる。




さっきのキスを思い出して、また顔が少し火照ってくる。

そんなことに気がつかないようにするが、




『いってらっしゃい』
窓からかけられら家主の言葉に私は一瞬のどが詰まりそうになる。



なんとかそれを悟られないようにして「いってきます」と返せば、
満足な顔をした彼がひょうひょうと手を振ってくる。





手を軽く振り返し際に、「藤野さんも早く仕事してください。」と声をかければ笑われた。




『頑張るよ。』





その声に後ろ髪惹かれるようして、その場を離れるといつもどおりの出勤ルートに入る。