「炎彬さんは覚えてないだろうけど、私たち以前にも一度会ってるんですよ。

私がデビューする前の、都会に上京したばかりの頃、町で偶然会って、道で転んだ私を助けてくれたんです。

他の人はみんな見て見ぬ振りしたのに、炎彬さんだけがカバンから落ちたものを拾ってくれて、大丈夫?って声かけてくれたんです。

変装してたけど、声ですぐに分かりました」



レイナがデビューする前だと、一年、二年ぐらい前か?

思い出そうとしても、全く思い出せない。


人違いじゃないかとも思うけど、歌手で耳も良いレイナが俺の声だったと言ってるんだから、俺なんだろう。


それならますます最初からいってほしかったし、ややこしいことをして大事になったと思う気持ちもあるけれど。

そんなに前のことから俺のことを思ってくれて、ありもしない趣味を偽装してまで俺と近づきたいと思っていてくれていたなんて......。



「理由があっても、私が炎彬さんを騙して、傷つけたのは事実です。

本当にごめんなさい、こんなことして......。
もう近づきませんから。

これが最後のデートだと思って、楽しみます」



涙ぐみながらも、腕を絡ませてくるレイナに俺は......。