たとえ愛なんてなかったとしても

自覚してるから心配しないで、と返事をすると、マネージャーはもう一度念を押して、部屋を出ていった。


撮影のために用意された衣装に着替えてから、ヘアメイクも全ての準備が終わると、撮影する場所に車で移動。


今回は水族館と、その近辺の撮影らしい。
平日の昼間にも関わらず、撮影をしているから見にきたのか、俺のファンなのか、とにかく若い女が集まっていた。

集まってきた人に、一度だけ手をふってから、スタッフと打ち合わせをしていると、相手役が到着したと言われたので振り向く。



「遅れてすみません。
今日はよろしくお願いしま......す」


「......よろしくお願いします」



中国だったら上半身裸で道を歩いてもおかしくないくらいに暑い時期に、俺と同じく季節感のない秋物の服を着せられている女は、俺を見た瞬間に固まった。


......俺も同じような態度をとってしまったが。
一番会いたいようで、会いたくないような相手だったから。


相手役くらい聞いておけば良かったが、聞いたところで今さら仕事をキャンセルできるわけもないから、どっちにしても同じことかもしれない。