たとえ愛なんてなかったとしても

「......気をつけます。
あの、マネージャー待ってるんじゃないですか?さっきから電話なってますよ」



俊輔に言われてスマホをチェックすれば、マネージャーからの着信が何度もきていた。


そろそろ行かないと、いい加減に怒られそうだし、仕事にも遅刻してしまう。



「じゃあ、また夜の仕事の時に。

それにしても、俊輔も、前よりも自分の意見を言うようになったな。そっちの方が、ずっといい」



以前は常に俺たちに遠慮していた俊輔が、遠回しで、押しが弱いとはいえ、前よりも自分の意見を言えるようになったのはいい傾向だ。

前は曖昧に笑っていて、怒ってるのか喜んでるのか分からない時が多い不気味なやつだと思っていたので、今の方がずっと付き合いやすい。


あまり知らないやつから見れば、ほとんど変わっていないように見えるだろうが、俺から見るとほんの少し変わったように思える。



「炎彬さんも前よりは、俺の話を聞いてくれるようになりましたよね。......少しだけ」



自分ではよく分からないが、俺も日本で暮らし始めて、いつのまにか譲歩するようになってきたのだろうか。


改めて考えてみれば、俺と俊輔の関係以外にも、以前よりも話をするようになったことによって、他のメンバーとの関係もわずかながら変わってきたような気がする。

言われければ気づかないぐらいの、本当に、わずかな変化だろう。けれど、確実に何かが。


朝から口論になりかけたが、最終的にはお互いに気持ち良く別れることができた。

しかし、俺が時間に遅れたことに始まり普段の仕事のことにまで発展し、マネージャーと車の中で激しいバトルを繰り広げたことにより、結局不快な気分で、仕事場に入るはめになったのであった。