「ここにいたくても、きっと今の私は本当の笑顔が見せられない......。
こんな気持ちで、それでも続けていいのか分からないんです」


「......本当の笑顔なんて、必要か?
偽りの笑顔でも待ってる人がいるんじゃないのか。

お前が、俺に言ってくれたんだろ?
どんな俺でも、どんな気持ちでステージに立っていても、それに励まされてるファンがいるんだって」



ファンの前、メディアの前では、本当の笑顔を見せる必要がないと言い切ってしまうのは極論だが。

偽りの笑顔でも待ってる人がいる、と俺に言ってくれたのはミヒ自身じゃないか。


無人島で、ミヒに言われたことを、今度は俺からミヒに伝える。



「本当の笑顔を見せられなくても、偽りの笑顔でも関係ない。
ステージに立つのは他の誰でもない、自分自身だろ」



メディアの前の自分は作った自分で、偽物だと思っていた。求められているのは偽物で、誰も本当の俺なんか必要としていないんだ、とも。
    
けれど、そんなこと悩む必要なんてなかったんだ。
偽物なんて、どこにもいなかったんだから。

 
メディアの前では見せない自分も、期待に応えようと求められているキャラを演じる自分も、どっちも自分自身じゃないか。


ミヒに向けてというよりも、むしろ自分に言い聞かせるようにそう言ってから、下を向いて涙を流すミヒの手を、そっと握った。


最初から、ミヒは俺自身を見ていてくれていたのにな......。それに、気づくことも、気づこうともしなかった。