たとえ愛なんてなかったとしても

自分たちの収録まで、あと五分もない。

どう考えたってもう戻らなければいけないが、どうしても行っておきたい場所がある。

トイレを出てすぐに、俺はその場所を目指して、走った。



 

探していた楽屋を見つけ、ノックをすると、すぐに目当ての人物が出てきた。



「......兄さん」  



リハを終えたであろう俺の弟は驚いたような顔をして、とにかく入ってと誰もいない楽屋の中に招き入れる。



「今日の選曲、どういうつもりだ?
自分の新曲を歌うわけでもなし、日本の名曲をカバーするわけでもなし。

アメリカの、しかも、メジャーな曲ならまだしも、あんなマイナーな曲歌って誰が得するんだ」



そわそわとした様子の弟よりも先に、さっそく本題を切り出した。

事務所が許したのなら、俺が口を挟むことでもないが、わざわざあんな曲を選ばなくても、もっと他に歌うべき曲がいくらでもあっただろう。  

しかも、特にトニーの声質に合っている曲というわけでもない。



「兄さんは、あの曲覚えてない......?」



開口一番ダメ出しされて、不安げにこちらの顔を覗きこむトニーに、俺は。