たとえ愛なんてなかったとしても

つないでいた手をすばやく引かれて、一瞬だけ唇が触れ合った。



「ちょっ、キャシー!いきなり何だよ?
誰かに見られたらどうするんだよ!?」


「誰もいなかったよ?」



確かに廊下を見渡しても誰もいない。
それにしても突然誰かが出てくる可能性もあるわけだから、こんなところで軽率な行動は......。

いやいや、そもそももっと他に重大な理由があった。



「誰もいなくてもダメ。
俺にはミヒがいるって何回も言ってるだろ」


「知ってるけど、それがどうかしたの?
キスしたくなかった?」



どうかしたって、重要な問題だろ。
したいとかしたくないとか、そんな単純な問題でもない。


キャシーは、ずるい。
どう言えば一番効果的か分かっていて、それで俺を追いつめる。

絶対に俺に負けてくれないのに、相手にもされていないのに。
それでいて俺の心だけは離してくれない。

どこまで振り回せば気がすむんだ。
もう嫌だよ、こんなのってないだろ。

嫌なのに。
どうして嫌いになれない?
どうしてキス一つで簡単に気持ちを持っていかれるんだ。