たとえ愛なんてなかったとしても

なんだよ。喉......ああ、そうか。

今日は炎彬がいないから、俺が代わりにメインを歌わなきゃいけなかったんだった。

いつものように自分の低音パートを歌って、どうする。


完全にメインボーカル不在の状態で、いつもは炎彬に合わせて歌う低音パートの俺の声だけが流れ、きっとファンには俺が豪快に音を外していると思われたに違いない。

しかも歌い慣れない歌ではなく、よく慣れた自分たちの歌で。


それにしても、炎彬の代わりに入るのを忘れただけではなく、歌っていてメイン不在の状態に自分で気がつかないなんて。

俺もどうかしてる。


何事もなかったかのように、その後はごく自然に炎彬のパートをポーカーフェイスで歌ったが。

それもおかしかったに違いない。
明るいバラードで笑顔になるような曲なのに、一人だけクールぶって。


どうかしてる、本当にどうかしてる。
たかがトニーのことで動揺する必要なんかないだろ?いつから俺はこんなに情けない男になったんだよ。

やり場のない怒りをただマイクを握りしめて、外には出さないように静かにこらえた。