「もう話は終わっただろ?
俺はそろそろ行かなきゃいけないから......、じゃあな」



一応形だけでも打ち上げに顔を出しておかないと、後から色々言われるのも面倒だ。

というのもあったが、何よりここでトニーと一緒にいたくなかった。


複雑な事情はあれど、純真な目で俺と一緒にいたいと訴えるトニーを見ていると、俺がどれだけ薄汚い人間か思い知らされるようで。



「でも......どんな形であれ、夢が叶って良かったな。
トニーも歌が好きだったよな。

お前が思っているような世界じゃないと思うけど、自分で決めたことなら......がんばれよ」



店を出てタクシー乗り場で別れる時、最後に声をかける。


何も優しい言葉なんてかけてやれないが、きっとこれが兄として言ってやれる最後のことだろう。

ここから先は、俺たちは別々の道だ。



「......兄さん!
二人でよく一緒に歌った歌、覚えてる!?」



泣きそうになるトニーの顔を見て、昔の記憶がよみがえる。


何でも俺のことを真似したがって、どこに行くのも俺の後を追いかけてきたトニー。
小さな体で、必死に追いかけてきた五つ下の、弟。

俺が歌手になるんだと言うと、じゃあ僕もって、よく言ってたな。



「......覚えてないな」



それだけ言って、俺はタクシーに乗り込み、行き先を告げる。
トニーの顔を一切見ずに。


あんなダサい歌......、もう忘れたんだ。