更に煉瓦の道を進んで行く。

 相変わらず、山を縫う様にうねうねと湾曲した遊歩道が続く。

 道を切り開くだけでも大変そうなのに、まるで商店街のアーケードの中の様にきっちり煉瓦が組まれている。こんな山道を煉瓦で細工する必要があるのだろうかと、ふと疑問が湧き上がった。


 やがて、左前方にしめ縄の巻かれた大きな一枚岩が現れた。

 そっと近づいてみる。

 岩と土の境目に控えめな看板が立っていて、消え入りそうな文字で『夫婦岩』と紹介していた。


「夫婦岩? どうして??」


 私は岩に手を触れ、巨大な全貌を仰ぎ見た。やはり、ただの一枚岩だ。

 普通、「夫婦何とか」と名称のついた自然は、同じ物が二つくっついているはずだ。

 例えば、夫婦山と言えば山が二つ並んでいるし、どこかの観光地で見かけた夫婦杉も、元は二本の杉の木が上部で一つに癒着したものだった。





『結奈、普通なんてこの世にないんだよ』