カランコロン、コロカラン


手にもつオモチャを振って音を鳴らす。中に鈴が入っているらしい円柱状の筒、そこから伸びた棒が持ち手らしい。

赤ちゃんをあやす一種の道具なんだと。


カランコロン、コロカラン

そのオモチャを振り続けて、もうどれくらいたっただろうか。


腕がしびれる。右手にオモチャ、左手は添えるだけ。そして、俺の膝の上には……。


「…なんで、こうなった?」


すぴすぴと眠る小さな天使の姿。

…俺、なにしてんだろう。
もはや遠い目をして現実逃避するしか選択肢はないとみた。

っていうか、ここが現実かどうかもわかんなくなってきた。

れれれ?ここはどこ?俺はダーアレ?




時は遡り。

駄目人間こと俺、【佐雄】(さお)は、またもや別空間に飛ばされちゃったらしい。

『らしい』とはまたなんとも他人事な感じがするけど、こればっかりは推量表現を使うしかない。

正直、俺もグッタリお疲れモードなのだ。


で、だ。次に飛ばされた空間(つまり俺が今いるここ)は、まんま子供部屋だった。

あちこちにヌイグルミやらブロックオモチャやら、カラカラと音のなる不思議な棒やら。

幼児向けの部屋って感じ。

柵付きの小さなベッドには誰もいなくて。しばらく辺りを見回していると、ふいに声をかけられたんだ。


「にいちゃ、どこからきたの?」

「ふぇっ?!」


すっごいビックリした。

だってそこに居たのは、ちっちゃいちっちゃい雨乱で。

他の空間で出会った雨乱より、さらにちっちゃくて。

ほんと、3歳児くらいなんじゃないかってくらい。


「ええっと…、俺は【佐雄】(さお)っていう名前で…」


そしてまた、この雨乱も、俺を知らないんだ。


「そっか。ね、にいちゃ。おれとあしょぼ?」

「っっ…、え…?」


『おれと』

今、雨乱は自分のことを『おれ』って…言った。

俺を知らない雨乱。
俺の知らない雨乱。

些細な違いも、俺にとっちゃ衝撃以外のなんでもなくて。

そりゃ、いま目の前にいる雨乱は俺といつも一緒にいた雨乱じゃない。

けど、


「にいちゃ…?あしょんでくれにゃーの?」

「えっ、あ。う、ん…遊ぼっか…」


だからこそ、悲しくなる。

これ以上俺が雨乱を知っていくことへの罪悪感と。

こんな些細なことも知らずに生きていたことへの、自分と彼らの疎外感。

ちょっぴし悲しくて寂しくて。

「…さ、遊ぼっか!よーしよし、こっちおいで~」

ちょっぴし、出そうになった涙は隠した。