「だいったいっ、孫の前でわしを【強欲】と呼んだ奴がなーにほざいとるんだぇっ。しかも佐雄をわしの孫だと認めんなんぞと言いおったのはお前じゃろうに。
昔っからそうじゃ。お前はよくわからん。二面性でもあるんかぇ?」

「二面性なんて、とんでもない」


わざとらしく肩をすくめ、うわずった声を出す白夜。
そのひとつひとつの動作が炎葉を苛つかせていると気づいているのだろうか。

否、それとも “わざと” そうさせているのか……。いずれにせよ、炎葉の言う通り白夜は『よくわからん奴』だ。



「僕はですね、ただ、だーいすきなボスの言いなりになってるだけなんですよ。
ボスがああ言えば、僕も否定はしませんし。かといって、僕にだって心はあるんですから。

身は捧げても、心は捧げず。

この身はボスのために。
そして心は…、炎葉。あなたのために」

「!」



にっこりと笑う白夜に、炎葉はぶるりと身を震わせた。


「(…相変わらず気色の悪い男じゃ)」


じっとりと背中にシャツが張りついているのは、冷や汗のせいか。
そしてその冷や汗は、恐怖によるものなのか。

恐怖。

その言葉がパッと頭に浮かんだと同時に、炎葉は勢いよく頭を振った。


「(いや、いや、いやいやいやっ!こんな若造に恐怖なんぞ感じるわけないわぃ!気のせいだのぅ、うむ)」

「?」


突然の炎葉の奇異な行動に、白夜は首をかしげるばかりであったという。



「…で、わしをここに呼んだ理由はなんぞぇ?わーざわざ孫を飛ばした程だしのぅ。よっぽど、聞かれちゃマズい話なのかや?」

「ご名答」



ニッ

卑しく口角を上げた白夜。次の瞬間、白夜の手にはラビリス(=斧の一種)が召喚されていた。そしてそのラビリスを白夜が勢いのまま降り下ろす。


「ッツ!」かろうじて避けた炎葉は相手の位置を探ろうとするが、生憎、白夜の攻撃により埃被った旧教室はもくもくと塵などにより見通しが悪くなってしまったのだ。

それでも白夜の気配を感知しようと感性を研ぎ澄まさせる炎葉。

しかし、行動するのが一歩遅かった。


「ふふっ、もっと狼狽えてくださいよ。僕の愛しい、強欲の王様」

「ッ、が…っ!」


炎葉の背後に回った白夜が、なんの躊躇もなく手に持ったラビリスを炎葉の首筋に殴りつけたのだ。

これには炎葉も堪え、思わず膝をついてしまった。

その、背後で。


「体中に、僕のマークをつけましょうかねえ? あなたは僕のモノ…、僕のだという証を、その体に刻みましょう」


妖艶に微笑むひとりの悪魔がまた、

「ッ、ああああッ!」

死を欲する鉄の塊を、降り下ろした。