ぴちょん、ぴちょん、…


一滴ずつ水の滴(したた)る音を耳にしながら、その少年はぐったりと椅子に座っていた。

だいぶ弱りきっており、今にも死んでしまいそうな様子。

か細い息が、ひゅうひゅうと部屋に散っていくなか、ふと少年の耳にコツコツコツと規則的な音が聞こえた。

それは、誰かが近づいてくる音。


ガチャ


「よう、天使さん。ご機嫌麗しゅう?」

「ぁ……」


重い重い鉄扉を開けてこの部屋に入ってきたのは、少年をここに閉じ込めたファミリーのひとり。


「悪りぃな、ボスが変なこと仕掛けてよ。でも安心しな、そんなあんたに朗報だぜ」

「……?」


「お前の友達…、【佐雄】(さお)と【倭草】(わぐさ)がお前を探しに旧校舎にいるんだとよ。
もっとも、その内のひとりはボスと遭遇してゲームに付き合わされてるみたいだがな」

「……。」


自分の大切な友人の名をきき、少年は僅かに頬を緩めた。

しかし、自分のせいで巻き込んでしまった罪悪感のせいですぐに表情は苦しげになる。


「それじゃ、俺はこれで」


用は済んだと踵を返す青年に、少年は自身を繋ぐ『鎖』をジャラリと鳴らして声をしぼった。


「待っ……、あ……、」

「……、辛そうだな。だが俺にゃあ助けることが出来ねえ。お前の友達にしか、お前を助けることが出来ねえんだ」

「ぁ…、ちが……」


助けを乞いたいわけじゃない。

少年、【雨乱】(うらん)は必死に声をあげて青年に思いを伝える。


「ありが…う…ざい…ま…」


目を見開く青年。
だがすぐに顔を綻ばせてこう言った。


「どういたしまして。…なあ少年、お前に俺の名を教えてやる。
俺様の名は【出雲】(いずも)。

本気でダメになったとき、俺の名を呼べ。“俺様”がお前の騎手(ナイト)になってやる」


それじゃあな。

今度こそ踵を返し行ってしまった青年、【出雲】(いずも)。

なびかせた長い白髪が、雨乱の目には何よりも輝いて見えた。


……騎手(ナイト)と言うことは、自分は姫(プリンセス)なのか。

若干そのことに不満を感じたのを、白髪の青年、【出雲】(いずも)は知る由もない。