「雨乱、おまえ………」

「……。」



倒れた佐雄を治療しているのは、どこからともなく現れた雨乱だった。

だけれど様子がおかしい。

無表情、なんだ。



「へぇ、こいつが佐雄のもう一人の友達か。女みたいだな」


「………。」



黒髪紫眼の男、……確か、十六夜さん。が、雨乱の禁句ワードを言ってしまったが、雨乱はピクリと体を震わせ、十六夜さんを睨んだだけだった。


何かがオカシイ。


こんなの、『シナリオ』にねえはずだぞ。なのに、なんで。


困惑している俺に、雨乱が口を開いた。その口から紡がれた言葉は、あまりにも残酷で。


ああ、『ヤベェこと』がまんま起こっちまった。

これじゃあ佐雄に合わす顔がねえじゃんかよ………。


用件を伝えるだけ伝えた雨乱は、そのままさっさと立ち去ってしまった。佐雄の傷跡は全くみられない。


隣を見れば、佐雄の爺ちゃんが怪訝な顔をして去っていった雨乱のあとを睨んでいる。



「あやつ……雨乱と云ったかのぅ。操られておる。ま、見当はついておるぞぇ。んと……倭草よ、そう心配せんでええぞぃ」


「佐雄の爺ちゃん……」


「!……かっかっか!ここは学校故、先生と呼ぶんだぇ?もしくは【炎葉】(えんよう)。

そちらが本名だからのぅ」


「へえ、強欲のくせして、そうやって輪を広げていくんだな。……アイツの気も知らないで」


「黙っとれい若造が」



冷たく睨む佐雄の爺ちゃ……あ、いや。炎葉さんに、十六夜さんは全く動じない。


え、ちょっ、すっげえ居心地わりいんだけど!


いい加減、佐雄も起きろって!